投資信託の世界

かつて定昇で抑え込まれてなるものかとベアを要求してきた労組が今では「定昇維持」を要求し、経営者側か「定昇の廃止・縮小」を主張するというのですから、全く逆さまです。
 労組の要求は「定昇維持」と書きましたが、それは全国組織の連合や産業別の上部組織の要求であって、個別企業の組合の本音は別で、上の組織とは必ずしも同じではありません。
例えば電機連合傘下の主要組合は二〇〇三年春に賃金制度の改定交渉に応じることを受け入れ、その後、H社などの労使は相次いで定昇を廃止して成果・能力主義に基づく賃金制度に改めることで合意しました。
 企業別労組は会社と一体感を持っていますから、基本的に経営に理解があります。
「定昇の廃止・見直し」が静かに広がっているのは不思議でも何でもありません。
会社にぶら下がるフリーライダーを防ぐために、今急速に普及しているのは「成果主義賃金制度」です。
定義はまだはっきりしませんが、原則として社員の年齢や家族構成などとは関係なく、それぞれの職務内容や実際の働きに応じて賃金を決めるというものです。
平等の考え方が結果の平等から機会の平等に変わったとよく言われます。
 従来は働きに差があっても多少のことには目をつぶって、同水準の処遇をするのが平等だと思われてきました。
しかし今後は平等に仕事の機会を与えるが、処遇は個々の成果に合わせて差をつけるのが公正だというわけです。
 二〇〇二年四月から定昇を廃止したC社の例を見てみましょう。
同社では「実力終身雇用」を旗じるしに、終身雇用は守るが年功序列は排するとの方針を打ち出しています。
好業績を上げるC社はもともと実力主義を掲げ、定昇も査定で決めていたのですが、次第に年功的な運用に変わってきていたそうです。
 これを抜本的に改め、現在、一般社員はエントリー(E)からJI、J2、J3、J4(課長代理クラス)の五段階に、それぞれ求められる職能と成果によって賃金に一定の幅を持たせた職群に分けられています。
管理職はM士からM5(本部長クラス)までの五段階に、求められる役割に応じて一定の賃金の幅を持つ等級に分けています。
月給は考課によって決まり、職務も成果も変わらなければ昇給しません。
ボーナスは成果の多寡がもっと反映します。
 賃金制度改定に合わせて、家族手当や役職手当などの手当類もなくして、すべて基本給に一本化しました。
二〇〇四年春からは社宅・寮も廃止します。
賃金は極力、仕事をペースに払いたいという考え方によるものです。
基準はすべて実力主義ですから、年齢による人事管理も排除し、役職定年は設けていません。
その役職にふさわしい職責を果たしている限り、年齢で役職を外されることはありません。
定年まで昇進もあります。
実際、三十歳代半ばと五十歳代の課長が同時に生まれています。
 正社員ばかり増えても意味がない 仕事の難易度や成果など、仕事を基準に人材評価のモノサシを切り替えると、正社員、非正社員の区別を見直さざるを得なくなります。
もともと「正社員」というものは身分的な違いを暗に表しており、仕事の基準では必ずしもありません。
この会社共同体の正式メンバーというだけのことで、仕事をさせたらいわゆる非正社員とどう違うのか、明確な差を見つけるのは難しいケースが多々あります。
 九〇年代以降、企業の労務構成はだいぶ変わりました。
その方向を整理して示唆したのは、旧日経連(現日本経団連)が九五年に発表した「新時代の『日本的経営』」の中で提唱した「雇用ポートフォリオ」という考え方です。
社員を長期雇用型か流動型かで三つのグループに分けていこうというものです。
 管理職や総合職、技能部門の基幹的な社員は長期雇用型で「長期蓄積能力活用型グループ」と名づけました。
一般職や技能、販売部門の社員は有期雇用で流動化する「雇用柔軟型グループ」となります。
その中間のタイプが有期雇用契約ですが、研究開発や企画的な職務で専門能力を発揮する「高度専門能力活用型グループ」と定義しました。
 この三種のグループのポートフォリオを自社の経営実態に合理的に合わせて組み上げるのが、これから重要な人材戦略になると提言したのです。
コアになる人材は従来通り終身雇用とし、その企業にとって競争力の核となるノウハウなどを長期的に蓄積してもらう。
定型化された作業などは有期雇用の労働者を柔軟に使う。
企業内では養成しにくい高度に専門化された人材も有期雇用で必要に応じて雇う。
こうすれば、正社員ですべてをまかなうよりも、適切なコストで柔軟に事業を展開できるという発想です。
働く人たちの意識の多様化も織り込んでいます。
 現実はもっと複雑ですが、パートタイマー、契約社員、派遣社員などの非正規社員がかつてなく増え、雇用の多様化が急速に進展しました。
これを直接後押ししたのは企業の雇用調整でした。
業績悪化によりコスト削減のために、正社員の雇用を絞る動きが広がったのです。
 完全失業率の推移がそれを示しています。
年間平均の完全失業率は九四年までぎりぎり二%台に収まっていましたが、九五年に三・二%になり、九八年には四・一%と四%台に乗り、さらに二〇〇一年には五・〇%と階段を上がるように上昇しました。
○二年五・四%、○三年五・三%と若干改善の兆しが見えますが、十年前と比べれば高水準に張り付いたままです。
 このため条件のよい正社員の口が減り、非正規に流れている部分がかなりあります。
学校を卒業しても、定職に就けずアルバイトなどと失業を繰り返すフリーターが増えました。
こうした雇用環境と企業の雇用戦略の変化が相互に影響しあって、「正社員」と「非正社員」の仕切りを見直す企業が増えています。
 働かない正社員より、優秀なパートタイマーを店長に 衣料品の量販店チェーン、しまむらは主婦のパートタイマーを戦力化して成功している一つの例です。
店を出す場合、正社員の店長を派遣して、店員はすべてパートタイマーでそろえます。
藤原秀次郎社長は「人件費を安くするためにパートを採用するのではない。
一番有能な人を採るのが狙いだ」と言います。
 経験的に、正社員よりもパートの方がよく働くので、逐次、パートに切り替えていったらパートだけになったというのです。
同社の店舗は郊外型で、周囲の住宅には仕事がしたいが時間的に制約のある女性がたくさんいます。
同社はその地域で一番高い時給で募集します。
すると「一番優秀な人が来てくれる。
時給が高くても能力と意欲が高い人たちは、能率を上げてくれるので十分引き合う。
人を安く使うつもりはない」。
藤原社長は合理的に考えています。
 店が軌道に乗ったら、パートタイマーの中から店長に向いている人を選び、店長になってもらいます。
店長はフルタイムの正社員です。
店長とパートタイマーの店員という構成ですから、同社では、同じ仕事で正社員とパートタイマーの賃金格差はありません。
あるのは地域ごとの相場の違いによるパートタイマーの時給の違いです。
 約八百五十店のうちパート出身の店長が約八割を占めています。
パートタイマーはまさに基幹労働力なのです。
同社では、毎月一回、全国の店長を本社に集めて一日がかりで会議を開きます。

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